解雇までの手続きも慎重に

2014年11月16日

NICHIGO PRESS 11月号 労働・雇用法弁護士 勝田順子の職場にまつわる法律の話

第10回 解雇までの手続きも慎重に

 

 2014年9月、フェアワークコミッションは、141回に上る経費の不正計上を行っていた社員を解雇したIBMオーストラリア(IBM社)に対し、この解雇は不当解雇であり、解雇無効と解雇日に遡って現在までの給与を支払えという命令を出しました。IMB社で17年間勤務するITプロジェクトマネージャーのCamiller氏(C氏)が、18カ月にわたり、仕事と関係ない出張先や出張期間を含めて、経費の水増し請求を繰り返し行っており、通常であれば解雇事由に該当するはずです。なぜこのような判決になったのでしょうか。

 今回の事案でフェアワークコミッションの判断のポイントとなったのは、解雇が「厳しく、不当、不合理」なものでないかを判断する、不当解雇の規定基準に則り、たとえ解雇に足りうる正当な事由がある場合でも、合理的な時間内に、正当な解雇手続きがとられたかという点でした。

 

 本件の場合、フェアワークコミッションは下記3点に重きを置いています。

 

1.合理的範囲を超えるIBM社の対応遅延

 

 C氏による最後の不正が行われてから、会社がそれに気付き、調査を始め、その後経営陣の合意を得て解雇を実施する過程に約3年も要した点。特に、不正が発覚した後も、C氏への聴聞を行うまでに約半年間、さらに社内で審議の上、懲戒処分の決定がC氏に通達されるまでに3カ月弱かかっており、合理性のあるプロセスとは程遠いとみなされた点。

 

2.IBM社自身が信頼関係を壊した点

 

 また、過去17年間、C氏は勤務態度に問題なくIBM社に貢献をしてきました。今回の不正についても、C氏は「不正請求は故意に行ったものではなく、請求システムの利用における純粋な勘違いに基づくものであった」という主張をしており、発覚後直ちにそれら事情を説明し不当利得の返還を申し出ています。しかしながら、これらC氏の主張をIBM社は熟考することなく、事前に内部決定されていた処分を適用しました。

 

3.矛盾した対応

 

 IBM社はC氏の不正で信頼関係が壊れて解雇しなければならないと判断したにもかかわらず、不正発覚から解雇の決定を経てその後1カ月後の勤務終了日まで長期に渡ってC氏を勤務させていました。これは、不正によって信頼を失ったので解雇をやむをえないとするIBM社の主張と矛盾すると判断されました。

 

<雇用主へのアドバイス>

 

 明らかに解雇が成立すると思われる事由があっても、解雇に至るまでの過程に適正な手続きが取られず合理性を欠いている場合には、このように解雇権の濫用と判断されることになります。
 解雇の有効要件を満たすためには、解雇するに足りうる正当な事由があるかを判断するのみでなく、解雇にあたり適正な手続をとることにも注意が必要です。

NICHIGO PRESSのサイトを見る

この記事を印刷する

ニュースフィールドのインデックスページへ戻る

English

日本語

カツダ・シナジー・ロイヤーズ

© 2016-2022 Katsuda Synergy Lawyers  |  プライバシーポリシー  |  免責事項